歌と歌手にまつわる話

(171) 森サカエ・ディナーショー  



Sakae Mori(1940- )

森サカエという古い歌手がいます。30年ほど前、テレ朝通りの夜更けのSound Inn DOMINANTに出入りしていた有名人で知り合いました。横須賀進駐軍のクラブ歌手としてプロに入りました。ティーブ釜萢が先生です。

DOMINANTは’60年代にテレビのヒットパレード番組で毎週おなじみだったダン池田とニューブリードのギターだった山口勝利が経営する店で、ジャズから演歌までジャンルを問わず何でもカルテットのバンドで歌わせてくれた店です。

ここには政治家から実業家、音楽家、芸能人、歌手、プロ野球選手、ラグビー選手、大学教授、家庭の主婦、銀座のクラブのママさんとパトロンとありとあらゆる人種が集まる東京一ユニークな店でした。

サカエさんはDOMINANTの身内のような人でした。不思議な人で自分が歌わない歌を私がレパートリーにしている歌があります。会うたびにJim Webbの”McArthur Park”を歌わされました。

2000年4月1日に六本木ヒルズ建設のためこの辺りまでビルは森ビルに買収され取り壊しです。それ以後、DOMINANTは鉄板焼きの店として骨董通りに移転しましたが、ここでは音楽はやりません。バンマスも経営から手を引いて、昔の人が集まる機会はなくなり、サカエさんともたまに何かのコンサートで出っくわすくらいでした。

2014年12月に「森サカエディナーショー」を京王プラザHで開催することになり、その舞台監督・音響・照明すべてを取り仕切る岡崎義彦さんから「先生、サカエさんのデナーショーに来てください」と教えられて、急遽出かけることにしました。すぐにサカエさんからDマンGセン円也の切符が送られてきました。振り込んだのは前日。

スタンダード・ジャズから美空ひばりまで、着替えた衣装も7着だったか忘れるくらい。拳闘の赤井某による大向こうからの掛け声もあったりして、賑やかなパーティでした。


岸 義和とサカエバンド


斉藤 功とフレンズ

演歌ギターの名人といわれる人がこの方だということを、橋本の伸ちゃんから聞かされていましたが、例えようのない音色でした。

歌を歌っている人に向かって「いい声ですねぇ」という褒め言葉は使ってはいけません。「声がいい」とか「声がきれい」というのは、人の心に触れるような歌を歌う人にとっては、この言葉は「使用禁止」です。「いい歌ですねぇ」と褒めてください。

本当に素晴らしいのは声ではないのです。声の響き、音色が良し悪しを決めます。イタリア語ではTimbro di Voceと言います。この響き・音色というのは声帯から発せられた音を如何に喉頭から副鼻腔でベストな共鳴状態を実現できるかどうかなのです。声帯から出る音そのものは「ぶー」という音ですが、口蓋の形や鼻の穴の形、さらには唇や歯の形をどう作るかで言葉となり音声となります。その音は単純なものなのですが響かせ方、共鳴の作り方は専門家は天性だといいます。声楽家はそれを目指して訓練をつむのですが、駄目な者は駄目なのだそうです。

その響きを出せるのはイタリア人に多いのだそうです。日本人では500人に1人いるかどうかだそうです。

斉藤さんのギターの響きを聴いてそんなことを思い浮かべました。(2014/12/16)


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