ジャズと雑学

(41) The Great American Songbook

”The Great American Songbook”という括りがある。1920年から1950年にブロードウェイ・ミュージカル、映画音楽などのために生み出されたアメリカのポピュラー・ソングの中で最も重要で最も影響をもたらした作品の「基準(canon)」をいう。


Alec Wilder(1907-1980)

評論家で作曲家のAlec Wilderが1972年にアメリカのポピュラー音楽作家の作品とその曲・詞について詳細に分析・批評した”American Popular Song : The Great Innovators, 1900-1950という本を書いた。

いわゆるTin Pan Alley時代の作曲家たちを俎に上げて、めった切りするという恐れ入りやの内容だ。

この本を「基準」として、作曲家・作詞家・楽曲を評価し、Wilderの基準に相応しい作者と作品を”The Great American Songbook” と呼ぶようになったそうだ。

この本が出版される以前からのスタンダード・ジャズ・ファンにとっては、鼻持ちならない。一世代、二世代後に生まれた人は何の疑問もなく受け入れているようだ。

”Tin Pan Alley Song”、”Jazz Standard”という言葉は広い意味で同じようなことを言っていて、これらのカテゴリーに含まれるポピュラー音楽作品は大体共通していると思ってよい。この当時に書かれた楽曲は星の数ほどある。その中で何十年にも亘って歌い継がれて残されてきた歌はアメリカ・ポピュラーソングの古典(Classic)である。

いい歌はAlec Wilderに決めてもらわなくてもよい。聴く人が決めればよい。音楽には理屈もあるが、それより人の感性にうったえるかどうかだ。

巨匠Irving Berlinに対しても痛烈な批評を書き、Berlinは激怒したという話が伝わっている。例えば、”Alexander's Ragtime Band”には「Ragtimeの要素は何もない」と書いている。そのためこの本にはBerlinの譜面は一切掲載させなかったという。そのIrving Berlinを含めて6人のコンポーザーには各1章を個別に書いている。

Jerome Kern, Irving Berlin, George Gershwin, Richard Rodgers, Cole Porter, Harold Arlen

次は2人で1章、

Vincent Youmans, Arthur Schwartz

次は3人で1章、

Burton Lane, Hugh Martin, Vernon Duke

以下のコンポーザーは「偉大な職人」という章に入れられている。

Hoagy Carmichael, Walter Donaldson, Harry Warren, Isham Jones, Jimmy McHugh, Duke Ellington, Fred Ahlert, Richard A. Whiting, Ray Noble, John Green, Rube Bloom, Jimmy Van Heusen

これらのコンポーザーの作品以外にも素晴らしい作品が残されているので、章を改め”Outstanding Individual Songs”に多くの名曲が取り上げられて分析・評論されている。

驚きの本だ。彼の日本名、荒苦悪駄。(2013/7/12)


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