歌と歌手にまつわる話

(142) 懐かしのTill Then


Mills Brothers

ミルスブラザースの十八番に”Till Then”という歌があります。1944年に Eddie Seiler, Sol Marcus, Guy Woodの3人の共作です。戦争の一番激しい昭和19年です。Guy WoodはMy One And Only Loveを作曲しています。

1944年のシングル版では、B面に”You Always Hurt The One You Love”が入っています。

戦地に赴く兵士が、自分の大事な人に「どうか、帰ってくるまで待っていてくれ」と歌います。それで、Till Thenなのです。

この歌を一番好きだった人は、私の知る限りでは小島正雄さんでした。私が高校生のころに、ミルス・ブラザースと”Till Then”の話をテレビでよく話されていました。それにしても小島さんと同様、私が一番好きといってもいい歌なのですが、今頃になって書いているのです。忘れていたわけではないのです。

そんなわけで、この歌を知り聴いてから半世紀以上の年月が過ぎていきました。今では、4男のDonald Millsの息子、John Mills IIが後を継いで、プラターズで長年リードを歌っていたElmer Hopperと1999年に新世代のミルス・ブラザースで歌い始めました。もともとは4人兄弟だったのが3人になり、ついに2人になりました。

昨年(2010年)のコンサートに、その2人にDonald Mills Jr.が登場してきました。父親にそっくりさんです。あの世から降りてきたのかと思いました。ドキンとしましたよ。今年も3人とビリー・エクスタインの娘のジーナ・エクスタインが加わり8月20日にロサンゼルスでMILLS-EKSTEINEコンサートが開かれると言ってきました。

”Till Then”がミルスによって歌われてから、10年後にThe Orioles、さらにThe Hilltoppersなどがカバーしています。シナトラ一家のサミーもディノもソロで歌っています。しかし、この歌だけはミルス以外の人の歌は私の耳は受け付けません。

「そろそろいい歳になったから歌ってみるか」というわけで、実験的に試してみました。いやー、とんでもなく難しい歌だということが今になって再認識させられました。そのことが若い時代には本能的に分かっていて歌おうとしていませんでした。ちょっと時間を置いて再チャレンジして見ることにしました。

    

"Till Then" by The Mills Brothers, 1944

これはDeccaの最初のレコーディングです。オリジナルのレコーディングとして価値があります。

    

”Till Then" by The Mills Brothers, late year

これは戦後になって3人になってから吹き込んだものです。Donaldのソロと後半のさびからHarryがソロを歌いますが、若いときより歌の深みが増します。60年代になって来日しますが、聴きに行ったときもこの歌は必ず歌いました。後になればなるほど深みと味が増して来ました。(2011/8/7)