ジャズと雑学

(62) 「,」一つで Speak Low

”Speak Low”は自分で歌わなくとも聞いたことがある人が殆どではないでしょうか。Four Freshmenが如何にも好きそうな洒落たメロディと歌詞がついています。最初に聴いたのがフレッシュメンでした。

「ジャズ詩大全」で名高い村尾陸男が毎月のライブ案内やお勉強会の集まりなどの知らせをメールで送ってくる。彼は私と同じ慶應工学部の後輩だったが、ミュージシャンになって退学してしまった。

1990年頃だった。「ジャズ詩大全」の第1巻が売り出され、次々と増えて現在は22巻出ている。
 


Rikuo Murao(1942- )

今日、村尾からジャズのお勉強会の案内メールが来た。その題目が「SPEAK LOW」だという。こんな案内です。

日曜日19日0-4pmはウタウタゲ29です。今回は [Speak Low] をとりあげます。この曲は格調が高く、ヨーロッパの雰囲気があって、とても有名ですね。1943年にオグデン・ナシュ Ogden Nashとカート・ワイル Kurt Weillが書いています。〈マイ・フェア・レイディ〉と同じくギリシャ神話〈ピグマリオンPygmalion〉(本当の発音はピグメイリアン)に基づいた【One Touch of Venus ヴィーナスの接吻】に挿入された曲です。

ところでこの曲はもともとは1600年に書かれたシェイクスピアの喜劇〈から騒ぎMuch Ado About Nothing〉のセリフ Speak low, if you speak, love を引用しているので、それを知っている人には印象深い曲でしょう。〈から騒ぎ〉からのSpeak low, if you speak, loveという行を使うようにナシュに提案したのはカート・ワイルだったそうで、なにか印象の濃い、古典の香り漂う歌詞になってますね。

問題はこの1行で、困ったことに日本の出版物やネットでは、たいていloveの前のコンマが抜けているんです。で当然ながら訳は〈愛を語る時は声を低くして〉とたいていはなっています。僕は今回外国のサイトを覗いていて、〈, love〉とコンマが入っていて、おかしいな、間違ってるな、なんて思って、あれこれ調べていたら、なんとコンマがない方が間違いだと気づいて、愕然としました。じつは僕も何十年とこの間違いを犯してきたわけです。今回これに気づいて直せて本当に良かったです。この曲の題名でもあり、1行目でもあり、何度も出てくる重要な歌詞なので、この解釈はわれわれにとって大きな意味を持ちます。どうぞ、みなさんもこの1行の解釈について、ウタウタゲで一緒に勉強しましょう。

   

早速、私の歌詞カードをチェックしてみた。幸いだ、村尾のいう間違いはしていなかった。

最初の一行、”Speak low when you speak, love”の「カンマ」があると無いとで大違いになると、村尾が言っている。今どきは、英語の歌の訳詞がネットにごろごろ出てくる。「カンマ」を意識して訳しているものは極々少ない。殆どが、

       「愛を語るときは、低くささやいて・・」

なんて書いてある。原詞には、

       「話すときは低い声でね、恋人よ」

と書いてある。「ね、あなた」という呼びかけなのだ。

さて、歌っているのを聞いて、この区別が出来るのでしょうか?私の耳が悪いのか、どの歌手の歌を聴いても「カンマ」は聞こえてこない。さて、「カンマ」のある無しで、歌い方を変えられますか?

(2017/11/17)


  Index       Next