Amazing Grace その生まれと育ち

ジョン・ニュートンは若い頃、奴隷商船に乗って奴隷売買が商売で大儲けをしていた。さんざ人の道に外れたことをし続けた男が、船が嵐に遭い、浸水が激しく沈没しかけた時、神を信じることも無かった自分が心底から神に祈って奇跡が起き、船倉に開いた穴に積んでいた荷物が転がり穴をふさいで船は沈没を免れたという。

自分のような酷いことをし続けた人間にも神は救いの手を差し伸べてくれたと、それまでの悪行を悔い改め、勉強をして牧師になったという。1700年代の実在する人物の話だ。


John Newton (1725 - 1807)

ニュートンが1772年に書いた詩が元になって、アイルランドかスコットランド民謡のメロディーと掛け合わせて出来たといわれるが、作曲者は不詳・不明となっている。”Amazing Grace”は賛美歌として生まれたのである。

”Amazing Grace”とは文字通り「驚くべき神の恵み」という意味である。

奴隷時代に聖書を題材に書かれた宗教色の強い歌が黒人霊歌(Negro Spirituals)と呼ばれる。その頃は、奴隷たちが夜遅く隠れて救いを求めて歌っていたものだ。”Go Down Moses”、”Nobody Knows The Trouble I've Seen”、”Joshua Fit The Battle Of Jericho”、”Deep River”、”Swing Low, Sweet Chariot”、”Set Down Servant”といった名曲はなつかしい。Paul Robesonというバスが超低音でDeep Riverを歌うのを聞いて痺れたものだし、Golden Gate Quartetはよく日本にやってきた。その歯切れのよいリズムとハーモニーは今も受け継がれている。
 


Thomas Dorsey
(1899-1993)

ゴスペル、Gospelという言葉は「福音」を意味するが、「ゴスペル・ソング(福音歌)」という言葉が生まれたのは1920年から1930年にかけてトーマス・ドーシーというブルースの作曲家によるものである。

彼はブルースから教会音楽へと転進し、シカゴの教会でクワイヤを始めた。そこで、トーマス・ドーシーは「ゴスペルの父」と呼ばれる。ゴスペル・ソングの源流はもともとメソジスト派の賛美歌である。”Amazing Grace”もそういう過程を経てわれわれの耳に届いている。

Mahalia Jackson(1911-1972)

”Amazing Grace”がアメリカに渡ってきて最初のレコーディングはマヘリア・ジャクソンというゴスペル・シンガーだった。1947年である。それで、アメリカ全土に広まったのだ。マヘリア・ジャクソンは「ゴスペルの女王」と呼ばれる。

マヘリア・ジャクソンのゴスペル・バージョンを聞いてみましょう。

 

もう1つ聴いていただきたい人がいます。わかGの一回り下のDiane Schuur(1953- )という盲目のジャズ歌手です。3オクターブを歌うことでも有名です。ここでも加線上のDまで歌います。古いジャズファンにとっては、まだ小娘くらいにしか思っていなかったのですが、あと2年で古希になります。

 

しかし、優しい”Amazing Grace”は、アイルランドのCeltic Womanという女声コーラスです。You Tubeでも2000万人を超す人がアクセスしているんですよ。ご存知でしたか?この歌が生まれ故郷に帰ったのです。

 

だから、”Amazing Grace”は、生まれ故郷はイギリスではあるが、アメリカの黒人がゴスペル・ソングとしてここまで育ててきた歌だということ。アメリカから発信されて世界中に広まった”Amazing Grace”はクラシック系からジャズ歌手まですべてのジャンルの歌手がカバーしている。

原詞には6番まで歌詞が書かれているが、全部を歌っているレコードには出会ったことがない。2,3番までが歌われるようだ。Diane Shuurは1番しか歌っていない。1,2,3番を歌うのはCeltic Womanだけだった。 


オリジナルの歌詞(by Wikipedia)

Amazing grace!(how sweet the sound)
That saved a wretch like me!
I once was lost but now am found
Was blind, but now I see.

'Twas grace that taught my heart to fear.
And grace my fears relieved;
How precious did that grace appear,
The hour I first believed.

Through many dangers, toils and snares.
I have already come;
'Tis grace has brought me safe thus far,
And grace will lead me home.

The Lord has promised good to me,
His word my hope secures;
He will my shield and portion be,
As long as life endures.

Yes,when this flesh and heart shall fail,
And mortal life shall cease;
I shall possess, within the vail,
A life of joy and peace.

The earth shall soon dissolve like snow
The sun forebear to shine;
But,God who called me here below,
Will be forever mine.


6年前に書いた原稿からの抜粋である。(2021/4/26)