歌と歌手にまつわる話

(34) ショウ・ボート Ol' Man River


Mississippi Delta

Jerome Kern(1885-1945)とOscar Hammerstein II(1895-1960)による1927年のブロードウェイ・ミュージカル「ショー・ボート」はミシシッピを上下して河岸の街々にショーをみせる一座のお話です。

この一座の座長の娘が、いんちき賭博師に恋をするというのが主題なのですが、黒人女と白人男の南部の法律では許されない恋も描きます。

人間とは一体何なんでしょう。この中で"Ol' Man River"はなんとスケールの大きな歌なんでしょう。まさにミシシッピのスケールの大きさそのものです。みなさん、これがOl' Man Riverです。


Jerome Kern


Oscar Hammerstein

Paul Robeson
(1898-1976)

1927年、最初の主演をしたのはアメリカを代表する黒人バス歌手、ポール・ロブスンです。彼の歌を学生時代に聴いて震えるほど感動したものです。

ポール・ロブスンは人種偏見と闘い、
"The artist must elect to fight for freedom or for slavery. I have made my choice. I had no alternative."
という力強い言葉を残しています。写真はポール・ロブスンのポスト・カードです。

 

https://youtu.be/iEQEeNhtosg

もう1曲河の歌があります。黒人霊歌で名高いDeep Riverです。2大河です。

 

https://youtu.be/U_v_rxITXNw

スコットランド民謡に"Loch Lomond"という歌があります。1900年代初期の歌ですから多くの人が唄ってきましたが、誰よりもポール・ロブスンの歌が私の胸に響きます。
 

 

https://youtu.be/roADAt_mHec

(1998/10)

2002年7月9日、ついにLoch Lomondまで行って見てきました。スコットランドでは湖のことをLoch(ロッホ)というのです。

ORの国際会議が英国、エジンバラで開催されました。2日目のセッションをサボって、カミサンとバスツアーに出かけたのです。グラスゴーから北に上っところにある大きな湖でした。写真の正面に見えている島の手前まで遊覧船がめぐっています。

自分の好きな歌に唄われた土地を見てくるというのは、一入の感動を味わうことになります。当初、変ななまりの英語と思っていたのですが、ポール・ロブスンはスコティシュで唄っていたのです。


Loch Lomond, 2002/07/09

私はOl' Man Riverを聞くとサミーを思い出します。1985年にサミー・デイビスJr.のパリでのコンサートをテレビで放映しました。そのとき、このOl' Man Riverを唄ったのです。滅多に唄わない歌だといいながら、この日は彼の巨漢マネージャーの誕生日だったので

「マネージャーのリクエストに応えさせて欲しい」

と言い、ピアノ一本の伴奏で唄いました。

サミーの目は血走っていました。すごい迫力は見る者、聴く者を圧倒しました。その晩パリのお客さんは興奮して眠れなかったのではないでしょうか。やはり、この歌はそういう歌なのです。私の持っているサミーの盤には、この歌は入っていません。この番組のビデオは宝物です。(2002/8)

 

https://youtu.be/jtpKr70VxdA


何時の事だか記憶にないのだが、この歌を歌う奴隷たちの気持ちになって訳詞をしたのが残っていた。オスカーさんの歌詞には何時も感動を覚える。こんな教養深い作詞家がいたなんて20世紀の前半にはすごい人がいたのです。

OL' MAN RIVER
Oscar Hammerstein II and Jerome Kern, 1927
 

Here we all work on de Mississippi
Here we all work while de big boss plays
Pullin' does boats from de dawn to sunset
Gettin' no rest till de Judgement Day
Yet don't look up an' yet don't look down
Don't dast make the big boss frown
So you bow yo' head an' you bend yo' knee
An' you pray to God that it all to be free

Dere's an ol' man called Mississippi
Dat's de old man that I long to be
What is he care if its folks ain't happy?
What is he care if the land ain't free?

Ol' man river, dat ol' man river
He must know sumpin' but don't say nothin'
He jus' keeps rollin', he keeps on rollin' along
He don't plant 'taters, he don't plant cotton
An' dem dat plants 'em is soon forgotten
But ol' man river, he jus' keeps rollin' along

You an' me, we sweat an' strain
Body all achin' an' racked with pain
"You dat, tote dat barge!","You lift dat bale!"
And if you git a little drunk an' you land in jail

Ah gits weary an' sick of tryin'
Ah'm tired of livin' but I skeered of dyin'
But ol' man river, he jus' keeps rollin' along.

俺たちゃみんなミシシッピで働くのだ
おれたちぁ働いてんだよ、大旦那様がお遊びの間もな
夜明けから日暮れまでロープで船を曳くんだぜ
「最後の審判の日」が来るまで休息なんてありゃしねぇ
上を見るんじゃねぇ、下も見ねえようにな
大旦那さまのご機嫌を損ねるんじゃあねぇぞ
だから首(コウベ)をたれ、そして膝まづき
すべてが自由になるように神に祈るんだ

ミシシッピと呼ばれる老人がいる
その老人に俺はなりてぇ
人さまが不幸せじゃねぇかなんて気にかけるんだろうか
祖国が自由じゃねぇかなんて気にかけるんだろうか

老人の河よ、あの老人の河よ
かれは何かを知っている筈なのに何もしゃべらねぇ
彼はただとうとうと、とうとうと流れつづける
あいつは芋も植えねぇ、綿を蒔くこともしねぇ
それを育てるやつのことなど憶えていちゃくれねぇ
それでも、老人の河、彼はただとうとうと流れつづける

お前も俺も、おれたちゃみんな汗まみれでぼろぼろだ
身体中が痛てぇよ、苦痛で拷問のようだ
「おい!、あの艀(ハシケ)を運べ!」「お前!、あの船荷を引き上げろ!」
それで、ちょっと飲もうもんなら監獄行きよぉ

あゝ、もうへとへとで疲労困憊だ
俺はもう生きているのが辛い、だけど俺は死ぬのが恐ぇんだ
それでも、老人の河、彼は唯々とうとうと流れつづける

(2021/4/21)


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