ジャズと小噺

(14) カラオケ作りの失敗談

前頁に続いて奥さん思いの旦那の話です。

奥さんのレパートリーは沢山あります。練習するのに旦那がピアノを弾いてやれればよろしいのですが、何の疑問もなくF#の譜面を作るくらいですから弾けません。

そこで、親しいピアニストを家のスタジオに呼び寄せて、一杯ピアノ伴奏を録音しました。

これでは飽き足らず、今度は親しいベーシストを呼び寄せて、これにベース演奏をかぶせました。やや、しんどかったと思われますが、ベースの貴公子は親切にやってくれました。

はい、これでやめておけばよかったのです。

ある日、チェット・ベーカーを思わせるトランペッターに出会いました。その音に惚れてしまったのです。「K子のカラオケ」にトランペットを入れようと考えたのです。私に彼のメールを教えてくれというので、そのチェット・ベーカーを紹介しました。

初めに入れたピアノはトランペットが入ることを予想もしていませんから、他の楽器が入る余地なく弾いているわけです。ベースを追加したくらいは良かったのですが、そこにトランペットが入ろうとすると喧嘩が起こります。それで、結局、かしこいトランペッターは無理にこの仕事を引き受けることを断わりました。何でもいいやで、吹いてしまったらそれなりにギャラがもらえたのでしょうが。

本当はピアノの左手はベースのパートも弾いているはずです。ピアノはベースがいるときといないときとで全く弾き方が違います。だから、ベースは文句を言わずやってくれたのです。普段世話になっているからです。

もう一つ問題が露呈しました。トランペットの助奏(オブリガート)をつけていくのに、歌が唄われていないとどう吹いたら良いかがわかりません。したがって、一緒に唄ってくれとなります。すると、歌がトランペットの音をとるためのマイクから入ってしまうのです。再生するとその歌までカラオケから出てくるのです。

まあ、いろんなことを彼はやって気づいたわけですが、きわめてユニークな経験と言わねばなりません。後日、わたしに披露してくれた貴重な体験談です。私自身も自分で多重録音をやって音を重ねますが、私の場合はコーラスを1人でやるために同じような手順で録音するのです。私の場合はすべてを違うトラックに録音して後でミキシングします。

技術的には、各パートをトラックを変えて録音できるミキサーを持っていれば、トランペッターはヘッドフォンでピアノ、ベース、ボーカルを聴きながら吹けばよいのですが、簡単にそんなミキサーを買ってくるわけにはいきません。


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