ジャズと雑学
Jazz and Trivia

(95) フィードバックをする習慣

今日は2024年5月の連休が終わった7日です。今月で閉店する赤坂リトル・マヌエラで、Old Cats(清水万紀夫(cl・leader)、永井隆雄(pf)、マービー朝倉(bs)、奥山五月男(dr))が伴奏するセッションの日でした。そこに来ていたお客様の1人がレコーダーを持ってきていました。

歌を歌うことが好きな皆さん、あなたは自分の歌を録音して聴いていますか??

昔むかし、私の指導する合唱団のメンバーに「自分の歌を録音して聴く習慣」をつけるように奨励しました。以下は、その時に書いた文章です。

自分の歌を自分で聴くことほど惨めなものはない。誰もが嫌悪感が走る。それでも録音して聴かないといけない。厭なものを何度も聴き返すことが必要なのだ。不思議なことに少しずつでも上達する。これより優れた練習なんてあり得ない。

フランク・シナトラは「自分の歌の録音を誰よりもよく聞いた」という話を娘のナンシーがシナトラの伝記の中で書いている。

自分で聞くことによって少しずつ自分が理想としているものに近づいて行く。これは歌のフィードバックによる上達法だ。フィードバックの回路がないと、目をつぶって車を運転するようなものである。コースが外れても分からない。それと同じで、音がはずれていても分からないのだ。

「理想とするもの」は簡単に言えば、自分の好きな歌手の歌い方である。だから、自分が好きな対象が無い人は上手くなんてならない。目標が無いからだ。高い目標を作りなさい。

録音した歌が「まあ、少しは聞けるようになったかな」と思えるようになれば、今度は人前で歌ってみることだ。聞かされる人には迷惑千万な話だが、そうして進歩していくのである。

自分で歌っている歌は自分で聞こえている。しかし、耳から入る音と骨伝導で聞こえる音が合成されたヴァーチャルな歌が聞こえている。これで、みな上手に聞こえているつもりになる。だから、自分の歌に酔いしれている人が多いのだ。周りは歌わないほうがよいと思っても、本人は素晴らしい歌い手だと思って歌っているのです。

それで、カラオケやが繁盛するのです。金儲けを考える人はすごい!

自分の歌を録音して聞かないまま人前で歌う人が如何に多いか。無謀というか人前に自分の裸をさらすのと同じだ。

よく上手な人の後で、下手な人が平気で歌っているのに出会います。そんな人は、自分の歌を聴いたことがないのです。自分がうまいと思い込んでいるわけです。

何度も唄って、歌を覚えることは出来ても、いい歌にはなかなか到達しません。繰り返し聴いて納得するまで練習することしかありません。初めは聞くのがいやでしょうがないかもしれません。いやでなくなったときは、そこそこ唄えているのだと思います。自分の歌の録音を聴いて、いやだと感じる人は上達の可能性があることを意味します。

人間誰でもが、出力機器より入力機器のほうが優れて出来ているのです。つまり、うまく唄うための喉よりも、聞く耳の方が機能が高いのです。

かつて、今は亡き沢田靖司が自分の生徒にレッスンをする時、生徒にカセットテープを持ってこさせました。1時間のレッスン中の録音をするためにです。生徒は家に帰ってから、これを聴いて自分の上手くないところを知り、師匠の言っている指導しようとする内容を理解するのです。実に素晴らしい教育法を採用していたのです。

まさに、上で述べた練習法を自分の生徒に実践させていた素晴らしい師匠だったのです。

(2024/5/7)


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